#31
私の働いている病棟は、婦人科もあり、流産してしまった患者さんも入院します。その経過は様々で、定期の診察で受診したが心音が確認できず「流産」となった方、出血や腹痛で緊急に受診して「子宮内胎児死亡」が確認された方などです。
「SOAP」とは看護師がカルテで使う書式の一つ
S)命ってすごいんだなあ。
O)「流産」「子宮内胎児死亡」現実に衝撃、悲しみ。患者さんへ声掛けできず。戸惑いあり。
A)生きて産まれることができなかった赤ちゃんに直面し、命の大切さを知る。
P)プラン継続。
S=主観(気持ち) O=客観(事実) A=アセスメント(解釈) P=計画
死産の現実
【流産】
妊娠22週未満に妊娠が終了する場合。つまり、胎児が胎外で生育可能なまでに成熟する以前に妊娠が終了する場合と定義されている。その原因は多岐にわたるが、初期流産(12週未満)の少なくとも半数は染色体異常によるものとされる。
【子宮内胎児死亡】
妊娠22週以降~出産までに胎内で胎児が死亡すること。つまり胎児は胎外での生活能力を獲得する時期に達しているが、何らかの原因で死産となることである。原因は不明とされるものも多いが、臍帯の捻転、妊娠糖尿病、胎児の先天性奇形などがある。
もしこのような方が入院された場合、その週数や母体の状況にもよりますが、様々な方法で胎児を体外へ出す処置が行われます。
- 胎内で亡くなっている胎児を手術(開腹)で出してあげる方法。
- おなかの外に出ようとしている胎児を手伝い、経腟で出してあげる方法。
- すでに胎児は出ているが、胎盤などが残っている場合に子宮の中をきれいにする方法。
看護師は、医師に付いてこの処置の介助を行います。助産師がいる場合は助産師が行うことが多いです、なぜって、出産だからです。経腟で出してあげる場合は、出産と同じように痛みを伴います。死産も出産だと私は思います。でも、やっぱり辛いです。私は初めてその処置を見たとき、衝撃と悲しみで涙が出ないようにするのが大変でした。
22週未満で胎児のかたちが分からないときはまだ耐えられるんですが、小さくてもはっきりとかたちがあり、指、眼、口までしっかりと形成されている場合は本当に目を背けたくなります。まだ皮膚がしっかり形成されず、浮腫んだように赤い。触れるとすぐに壊れてしまいそうなくらい柔らかい。現実世界では出会わない何かを見たような不思議な感覚。その子を見ると、今、私がこうして生きていることがあまりにも奇跡に思えるから、なんだかその子に申し訳なくなってしまうから、眼を背けたくなるのでしょうか。
でも、こんな小さくてもちゃんとお腹の中で生きていたんだなと。当たり前のことを思ってしまいます(;_;)
死産、それに向き合う助産師さん
助産師さんは、死産を含めお産のすべてのプロフェッショナルです。赤ちゃんが死んでしまったお母さんたちの気持ちを受け止め対応すること、家族へ説明すること、赤ちゃんをきれいにしてあげること、お母さんと家族が赤ちゃんとの短い時間をどう過ごすかということ、全て請け負います。私は今の病棟で初めて助産師さんと一緒に働いていますが、本当にすごいと思います!
冷静に受け止めているお母さん
大泣きしてしまうお母さん
自責の念に駆られるお母さん
放心状態になってしまうお母さん
それぞれ反応は違いますが、私はいまだに何と声をかけることが良いのかわかりません。看護師として働き、ご高齢の方が亡くなる場面は何度も見てきましたが、やはり同じ亡くなることでもその意味が違うように思います。自分自身が不妊治療をしている今、子供が欲しいという気持ちは痛いほど分かります。やっと授かった子がお腹の中で死んでしまうなんて、想像しただけで辛いです。でも助産師さんは、お母さんや家族がその現実を受け止め、その子がお腹の中に来てくれた意味を考え、そして生きていくためのお手伝いをしてあげるのだと思います。すごく尊い職業ですよね。
赤ちゃんは、ちょうど良い大きさの箱に入れ、洋服のようにガーゼで包みます。実際小さな洋服も用意されています。少しでも状態を保てるように保冷剤と一緒に入れます。家族の希望にそってお花や小物を添えます。その後家族の希望に合わせ、赤ちゃんと同室で過ごすこともできます。
奇跡なんだなあ、と思います。
赤ちゃんが生まれることって。
授かるのも、生まれるのも、成長していくのも奇跡。当たり前のことですが、こんな大変な過程を経て生まれてきた命は、大切にしなければいけないのだなあと改めて思います。